事案の概要

2018年、ある事業者において検討されていた、大手流通事業者による借り上げ方式の土地活用案件について、事業判断の整理に関与する機会があった。

当該事業者は、市街地と郊外の2地点で事業を行っており、営業中の市街地拠点を取り壊したうえで、土地を長期契約で貸し出す計画が検討されていた。

提示されていた条件は以下の通りである。

  • 契約は長期固定
  • 建築投資は不要
  • 管理・運営の負担なし
  • 地代収入は年間およそ1,000万円規模
  • 大手事業者による信用力

また、カフェスペースを備えた大型店舗とし、敷地内にコインランドリー店舗を併設・誘致する構想も含まれていた。

既存事業の収益には不安定要素があり、それと比較すれば、変動のある事業収益を安定した固定収入に置き換える案として、合理的に見える計画だった。

違和感の発生点

当時、2つの事業拠点には、次のような特徴があった。

市街地拠点:客数は多いが、単価は低め

郊外拠点:客数は少ないが、単価が高く、利益率も高い

売上規模は、ほぼ同水準であった。

この構造から、利益率の高い郊外拠点を残し、市街地拠点を貸地にすることで安定化を図るという判断が検討されていた。

違和感を覚えたのは、この判断が「現在の利益率」を前提に、将来まで構造が維持されると仮定していた点である。

構造分析

業界全体を俯瞰すると、都市部で起きた価格や構造の変化は、時間差で地方へ波及するケースが多い。

当時すでに、都市部では低単価化の兆しが見え始めていた。

この流れを踏まえると、郊外拠点に残っていた単価優位性も、数年後には失われる可能性が高い。

5年程度のスパンで見た場合、

  • 郊外拠点の単価は下落
  • 市街地との価格差は縮小

人口規模の小さい郊外拠点では、客数で補うことができず、売上・利益の圧迫が顕在化する

一方で、市街地の土地は長期契約によって固定され、事業戦略を変更する余地がほぼ残らない。

この時点で、本計画は安定化ではなく、構造変化への耐性を失う選択になり得ると整理した。

判断を実行した局面

検討の終盤、この計画を進めるかどうかを最終確認する場が設けられた。

その場で、私は次のように伝えた。

「この計画は、短期的には非常に安定します。ただし、それは市街地の土地を長期で固定するという前提の上に成り立っています。数年後に単価構造が変わった場合、事業として打てる手は、ほとんど残りません。進めるということは、今の安定と引き換えに、将来の選択肢を捨てるという判断になります」

その場では、強い反論はなかった。

判断内容

郊外拠点を残す判断は、将来の利益圧迫を先送りする可能性が高い。

人口と客数の多い市街地拠点を残す方が、価格戦略や業態転換など、将来的な選択肢を持ちやすい。

また、本件の契約は中途解約不可であり、一度進めば、環境変化が起きても後戻りはできない。

この点を、致命的なリスクとして評価した。

最終的に、本案件は進まないことになった。

記録としての結語

条件が良く見える案件ほど、長期的には判断の自由を奪う構造を内包していることがある。

この案件は、進まなかった判断として、その構造と判断を実行した事実とともに、ここに記録しておく。

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