条件だけ見れば、断る理由が見当たらない話でした。
年間およそ1,000万円の地代が、30年間入ってくる。
それでも、この計画は進みませんでした。
何を見送ったか
2015年頃、ある事業者が検討していた土地活用の案件で、事業判断の整理に関わりました。
大手流通事業者が土地を借り上げる方式です。
営業中の市街地の店舗を取り壊し、その土地を長期契約で貸し出す計画でした。
提示されていた条件は、次のとおりです。
- 契約は30年の長期固定
- 建物への投資は不要(保証金の差し入れはあり)
- 管理・運営の負担なし
- 地代収入は年間およそ1,000万円規模
- 相手は信用力のある大手事業者
カフェスペースのある大型店舗を建て、敷地内にコインランドリーを併設・誘致する構想も含まれていました。
当時の前提
この事業者は、市街地と郊外の2か所で事業をしていました。
- 市街地の店舗:客数は多いが、単価は低め
- 郊外の店舗:客数は少ないが、単価が高く、利益率も高い
売上の規模は、ほぼ同じです。
既存の事業の収益には、不安定なところがありました。
それに比べれば、変動のある収益を、安定した固定収入に置き換える計画です。
利益率の高い郊外を残し、市街地を貸地にする。合理的に見える案でした。
分かれ目:今の利益率が、この先も続くのか
私が引っかかったのは、この判断が「今の利益率」を前提にしていた点です。
今の構造が、この先もずっと続くと考えていました。
私が見たところ
業界全体を見ると、都市部で起きた価格や構造の変化は、時間差で地方に広がることが多い。
当時すでに、都市部では単価が下がる兆しが出ていました。
この流れなら、郊外の店舗にある単価の強みも、数年で失われる可能性が高い。
5年くらいの幅で見ると、こうなります。
- 郊外の単価が下がる
- 市街地との価格差が縮まる
- 人口の少ない郊外では、客数で補えず、売上と利益が圧迫される
一方で、市街地の土地は30年契約で固定されます。
しかも中途解約はできません。
事業の戦略を変えたくなっても、打てる手がほとんど残らないわけです。
私はこれを、安定を得る選択ではなく、変化に対応できなくなる選択だと考えました。
計画を進めるかどうかを最終確認する場で、私はこう伝えました。
この計画は、短期的にはとても安定します。
ただ、それは市街地の土地を30年固定することと引き換えです。
数年後に郊外店舗の単価が下がったとき、打てる手はほとんど残りません。
今の安定のために、将来の選択肢を手放すことになります。
その場で、強い反論はありませんでした。
結果
最終的に、この案件は進みませんでした。
人口と客数の多い市街地を残した方が、価格の見直しや業態の転換など、将来の選択肢を持ちやすい。
それが私の判断でした。
その後、郊外の店舗の単価は、市街地の店舗と変わらない水準まで下がりました(2026年現在)。
今ならどう見るか
条件の良い話ほど、今の数字だけで決めたくなります。
でも、長期の契約で縛られるなら、見るべきは今の利益率ではなく、数年後の単価と、そのときに打てる手が残っているかどうかです。
打てる手が残っていない状態を、安定とは呼べない。
私はそう考えています。
集客でも、同じように「やらないこと」から決めています。
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